僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
修太郎(しゅうたろう)さん、まだ分かりませんか? 僕とアナタは同じ穴のムジナなんですよ」

 ひとりの女の子のことが堪らなく大好きで、その気持ちは理屈じゃなくて。
 常識とか一般論とか糞食らえだと思ってしまう。
 彼女のことになると何も見えなくなって、見境なく彼女を求めてしまうし、嫉妬心も半端ない。

 そんな感じでしょ?

 ほぼ空になったグラス越しにニヤリと笑ったら、修太郎氏がふっと肩の力を抜いた。

「おっしゃる……通りです」

 修太郎氏の眼鏡越しの視線が柔らかくなって、自分の隣に座る奥さんに注がれるのを見て、僕は何となく嬉しくなる。


 でも、次の瞬間修太郎氏から問いかけられた言葉に、僕は胸の奥がギュッと苦しくなったんだ。

「僕にとって日織(ひおり)は何もかもが初めての相手なんです。彼女以外の女性に対して性的欲求が微塵も湧いてこないとか……実際男としてどうなんだろうって悩んだこともありました。ですが、今はそれでよかったと思っています。第一……どんな状況であれ、他の女性を抱ける気なんてしませんし、それは日織に対して不義理かな?とも思うので。――池本さんも、ですよね?」

 運命の女性に出会った年齢が僕より低いのだから、他にいきようなんてなかったですよね、愚問でした、と言葉を重ねられて、僕は言葉に詰まる。


 だって僕は――。

 過去に一度だけ葵咲ちゃん以外の女性を抱いたことが、あるのだから。
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