僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
 僕は心臓がバクバクして、背中を嫌な汗が伝うのを感じずにはいられなかった。


 例えば、だよ。

 僕と葵咲ちゃんが大人になってから出会って、恋に落ちたんだとしたら。そこから恋人同士になったんだとしたら。
 ……どちらかにすでに性体験があったって仕方ないって思えるはずだ。

 でも僕らの場合は――。

 修太郎氏に示唆(しさ)されたように、小6で運命の恋に落ちた僕がそういう行為に及んだとしたら……それって葵咲ちゃんを好きなくせに別の女性とって構図、容易に成り立っちゃうじゃないか。

 僕が葵咲ちゃんでも裏切られた、と思うだろう。
 その気持ちは相手を好きであればあるほど大きくなってしまう気がする。

”寧ろ好きになり過ぎてるから……普通は気にしなくていいようなことでモヤモヤして困ってるの。”

 (ここ)へ向かう途中で聞いた葵咲ちゃんの声が脳裏に蘇る。


 悶々とした思考回路のなか、僕はあの日――初体験――のことに思いを馳せた。
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