僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
 何よりその女性(ひと)は、後ろから見ると葵咲ちゃんに見えないこともなかったから僕にとってこの上なく()()()で。

「申し訳ないんですが僕、後背位(うしろ)からしか無理だと思います。あと、声を出さないでもらえるなら――」

 今考えると無茶苦茶酷い注文だ。

 正直な話、僕は葵咲ちゃん以外、本当にどうでもいいと思っている節があって。

 大人になった今は大分善処できるようになったけど……社会に出るまではそれが顕著だった。

「――無理、ですよね」

 クスッと笑って、僕は(きびす)を返した。

 普通ここまで言われたらどんな相手だって怒って帰るだろう?

 実際のところ、僕は練習できたらラッキーと思う自分と、でもそれは葵咲ちゃんを裏切る行為だからやめとけよと躊躇(ためら)う自分との間で揺れ動いていた。


「――構わないわ」

 だから、彼女が背中を向けて歩き出した僕の肩を掴んでそう言ってきた時、驚きの余り思わず「え?」と聞き返してしまった。

「……貴女、バカなんですか?」

 ややしてその言葉の意味を理解して、そう言って溜め息をついたら「馬鹿正直に好きな子の身代わりとしてなら抱いてやってもいいとかいう、変に強気なドーテー君よりマシだと思うけど?」って意味深に笑われた。


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