僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「――待てないに決まってるだろ」

 いつもなら僕は葵咲ちゃんの気持ちを尊重することが多いんだけど、今回は無理。

 敢えて彼女をじっと見つめると、引き下がるつもりはないのだと言葉を続ける。

「正直、飲んでる間もずっと葵咲のことばかり考えてた。修太郎氏と話しながら、僕と彼の違いはなんだろう?って探ったりしてさ」

 言うと、葵咲ちゃんが(うつむ)いて唇を噛んだのが見えて。

「――葵咲、悪いけどそれは看過できないな」

 溜め息交じりに言って、葵咲ちゃんをグイッと自分の方へ引き寄せると、彼女の唇を割り開くように指の腹で触れる。

 僕は葵咲ちゃんがどんなに怒っていたとしても、その矛先が、僕や……それこそ他者に向いているなら根気強く待てる。

 でも、それが葵咲ちゃん自身に向くなら話は別だ。

「唇、噛むなよ。またやったら……キミがどんなに嫌がろうと、人目とか関係なくキスさせてもらうからね?」

 葵咲ちゃんの頬を両サイドから手のひらで挟んで僕から逃げられないようにすると、そう言って脅しをかける。

 葵咲ちゃんが瞳を伏せるようにして僕の視線から逃げるのを見て、「返事は?」と畳み掛けた。

 ややして葵咲ちゃんがか細い声で「わかった」と言ってくれたのを聞いて、僕は初めて彼女の頬を解放してあげた。
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