僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
***

 ホテルの部屋に戻ると、僕は葵咲(きさき)ちゃんの手を引いてベッドに腰かけた。

「エッチなことしようってわけじゃないから」

 いや、流れによっては完全否定はできないけれど、今はそれが目的でここへ座ったんじゃない。

 僕はスマホを取り出して動画アプリを立ち上げると、いくつかのキーワードを入力して適当な動画を選んだ。
 再生ボタンを押して、それを葵咲ちゃんとの間に置く。

「ちょっ、理人(りひと)っ。何考えてっ」

 再生され始めた動画を観て、葵咲ちゃんが慌てたように真っ赤な顔をして目を逸らす。

「理人、言ってることとやってることがちぐはぐ過ぎるよ……!」

 顔を両手で覆って恥ずかしそうにする葵咲ちゃんに、僕は「いいから黙ってて?」と静かな声音で告げた。

 スマホからは喘ぎ声とともに男女のあられもない姿が流れいて。

 何の前置きもなく、いわゆるエッチな動画を再生したんだから、葵咲ちゃんが慌てるのは当然だと思う。

 実際僕は彼女の前でこんな動画を再生したこと、ただの一度だってないしね。

「……り、理人のバカっ。話し合いするって約束したじゃないっ。そんなの観て興奮してる場合じゃ――」

 とうとう耐えきれなくなった葵咲ちゃんが、目端を真っ赤に染めて僕の胸を拳で叩いてきた。

 もちろん全然痛くないんだけど、僕は無言で彼女の手首を掴んでから、じっと葵咲ちゃんを見つめる。

「興奮……してると、思う?」

 真剣な顔でそう言って、葵咲ちゃんの手を自分の股間へ導いた。

「やっ、理人っ」

 僕のいきなりの痴漢行為に瞳を見開いて手を引こうとして――。
 葵咲ちゃんの動きが止まった。

「理、人……?」
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