僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
出立の日
「ねぇ葵咲(きさき)……やっぱり僕も……」

 朝から何度目になるだろうという理人(りひと)のセリフに、私は内心大きく溜め息を落とす。

 理人のこういうところ。

 すごく可愛くて愛しいと思う反面、少し面倒だなとも思うわけで。

「理人には仕事もあるでしょう? 三泊四日なんてあっという間よ?」

 空港ロビーで搭乗待ちをしながら、ソワソワと落ち着かない理人をなだめてはみるものの、私自身、たった三泊四日だし、と思えなくなりつつあった。
 こんな状態の理人を四日間も一人で置いておくとか……大丈夫かしら。

 そもそもこんな子犬みたいな目をされたら私も辛くなってしまう。

 私のすぐ横に座って、ギュッと手を握る理人が切なくなるぐらい愛しくて。
 ついにはどうして一緒に行こうって言ってあげなかったの、私……とか思い始めてしまう始末。

 理人は私を溺愛してくれているという自覚はあったけれど、何のことはない。私も大概彼に甘いのよね。

「ごめんね、理人。ちゃんとまめに連絡するし。なるべく早く帰るようにする! だから――」

 そこまで言って、私は何を言おうとしているんだろうと言葉を止めた。

「僕は離れてる間もずっと葵咲のことしか考えられないから……そんな不安そうな顔しないで?」

 言いかけて飲み込んだ言葉を見透かされたみたいでドキッとした。

 私、言いそうになったの。

 ――だから私のことだけ考えて待ってて、って。
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