名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
「すみません。とんでもない事になってしまって、衝撃的でしたよね」

「確かに、衝撃的だった。冷えた心の中に温かな光が差し込んだ気がした。美優ちゃんの誕生は私にとって天使が舞い降りた感じだったよ。生命の神秘。命の尊さ。色々な事を一度に教えてもらった。そして、私の心が再び動き出したんだ」

 朝倉先生が、以前に美優の事を「天使だよ」と言っていたのを思い出した。

「この世に生まれて初めての上げる産声、固く握った小さな手、未来へと受け継がれる命。その現場に遭遇して生きている事の大切さを改めて考えた。私は、生きているのに心を凍らせて死んだような毎日を送る自分を恥じた。心が動き出した私は、保留にしていた出版の話を受けて話を進めた。まさか、その本の表紙に指名したクリエーターがあの日の妊婦さんとは思わなかったけどね」

 二人で顔を見合わせてふふと笑った。私の手を包む朝倉先生の手が熱い。

「夏希さんが必死に子育てをしているのを見て、いつもパワーを貰っていたんだ」
 
「翔也先生、すみません。私、自分に自信がなくて、翔也先生に似合わないんじゃないかとずっと思っていたんです」
 不安を吐露すると、朝倉先生は優しい瞳で私を見つめる。

「夏希さんは、明るくて、頑張り屋さんで、愛情深くて、優しくて……」
 と、恥ずかしくなる事を言い出した。

「朝倉先生!」
 アワアワと朝倉先生の言葉を遮ったけど、止めてくれない。
「恥ずかしがり屋さんで、照れ屋さん」
 朝倉先生は私を揶揄い、そして優しい目をした。

「呼び方が戻っているよ」
 
「……翔也さん」
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