名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
「まあ、年を取るとね。つい、色々と口を出したくなってしまうの。夏希さん、ごめんなさいね」
とお母さんが、重くなった空気を払うかのように明るく声を掛けてくれた。
そして、お父さんのベッドの電動ボタンに手を伸ばし
「さあ、お父さんも少し休まないと疲れるといけないから……」
「ああ……」
お父さんの返事と共にベッドが平になっていく。
「夏希さん、すまなかったね」
お父さんの小さな声が聞こえた。
私は、首を横に振り将嗣のお父さんに笑顔を向けた。
「今日、お会い出来て良かったです。美優を抱いてくださってありがとうございました」
お父さんが細く痩せた腕を伸ばす。その手を取り、キュッと握り返した。
「また、遊びに来ます」
ベッドに横になったお父さんを部屋に残し、私たちはリビングに戻った。
「お待たせ、ごめんね」
「TVのCMが微妙に違うし面白いね」
と退屈な待ち時間を楽しんでくれていた様子にホッとした。
「ねえ、スマホ持って行かなかったみたいだけど写真撮らなかったの?」
紗月に言われて初めて気が付いた。
せっかく来たのに美優と将嗣の御両親とで写真を撮っていないなんて失敗だった。将嗣を見ると将嗣もそうだという風に瞳を見開いていた。
「あら、そうね。お父さん、今、休んだところだから先に私が美優ちゃんと写真を撮ってもらいましょう」
とお母さんがニコニコと笑った。
紗月がカメラマン役を買ってくれて、撮影会が始まる。
将嗣のお母さんと美優で撮ったり、将嗣とお母さんと美優で撮ったり、その3人に私が加わって撮ったりもした。
「ほら、園原さんと夏希ちゃんと美優ちゃんとの三人の写真無いでしょ? 撮ってあげるよ」
紗月の声を掛けで、美優を真ん中に将嗣と私の三人での撮影がはじまり、複雑な思いで笑顔を作った。
その後、ラインのグループを作り、各自の携帯に送信される。
後で、現像して美優のアルバムに貼り、美優が大人になった時に話してあげる日がやって来るんだろうなぁっと、スマホの写真を確認しながら考えた。