名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~

「時間が少ないけど、この後、お城に行って宿に戻って、明日は、午前中にさざえ堂を観光してお昼に手打ちそば食べて帰ろうか。紗月ちゃん付き合わせたのにロクに観光も出来なくてごめんね」
将嗣がプランを出して私たちは頷いた。

「素敵な旅館に泊まれたし、美味しい物も食べれたし、十分ですよ。それより将嗣さん疲れているんじゃないですか?」

「ありがとう、大丈夫だよ」
 
 後ろの席でチャイルドシートに座る美優をあやしなら前の席に二人やり取りを聞いてホッとする。

 車は市街地を走り、鶴ヶ城がだんだんと近づいてきた。
 国道を緩やかな速度で順調に走っている。有名チェーン店が立ち並び着るものも食べるものも選び放題と言って良いほど国道沿いは充実している。駐車場へと出入りする車も頻繁だ。
 ドラックストアチェーン店の看板が見えてきて、確かに荷物多すぎたかなぁっと紗月に出発の時に荷物の多過ぎを指摘された事を思い出し苦笑いを浮かべた。

 大き目の交差点を右折する。一時停止の後、矢印が出て発進した時。
 直進の対向車が迫って来て、「あっ!」と思った瞬間には、ドンッと強い衝撃を感じた。
 美優のチャイルドシートに手を伸ばし覆いかぶさる。三点シートベルトが体に食い込んで苦しくて、体の上に粒状に割れた窓ガラスが降り注いだところで意識が途絶えた。
 遠くで「夏希」と呼ぶ声と美優の泣き声が聞こえた気がする。

< 201 / 274 >

この作品をシェア

pagetop