名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
「スマホの電話帳開けていいのか?」
「うん、お願い」
電話帳の あいうえお順だとどう考えても上の方に朝倉先生の名前がある。
若干の抵抗はあったけれど、自分で画面が開けない以上どうしようもない。
スマホの操作をする将嗣は表情を変える事もなく出版社の名前を見つけ、タップするとコール音が聞こえ始めた。
将嗣は、スッと立ち上がり紗月と美優を連れて廊下へ移動してくれた。
旅先で事故に遭った事で、仕事の締め切りが難しくなってしまったお詫びをして、調整出来るものと調整の利かないものと振り分けをする手筈になった。
やっと、軌道に乗り始めた仕事がココで他の人に回ってしまうのは、フリーでやっている自分としては、かなりの痛手だけれど、締め切りがあって自分が書けない以上どうしようもない。そして、担当さんに朝倉先生へ予定変更の連絡をお願いをする。
後で手が自由になったら一人の時に朝倉先生に連絡をするしかないんだ、と切なくなった。
頃合いを見計らって病室に3人が戻って来ると、ホッとする。
「夏希ちゃん、明日、面会時間になったら来るからね。適当に買い物してくるから、夏希ちゃんのバッグ漁って美優ちゃんのものと夏希ちゃんのものに振り分けちゃうよ」
「ありがとう。ごめんね。すごく助かる」
「いーよ。困った時はお互い様、身内なんだし気にしないで!」
「紗月には、お世話になりぱなしでごめんね」
「明日、来るからね! ほら、美優ちゃんママにおやすみって」
と、紗月が美優を側に寄せてくれた。
満足に美優を抱くことも出来ない体をもどかしく思いながら、ケガをしたのが美優でなくて自分で良かったと思った。もしも、座る位置が反対で美優の座っていた所に車が突っ込んでいたらと思うとゾっとした。