名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
「滝沢さんには、敵わないなあ」
 朝倉先生は、ニコッと笑い返事をした。

 うっっ! いたたまれない。今の返しで収まって欲しい。

「いつまでも過去の事を引き摺っていないで、落ちて来た幸せを見逃しちゃダメよ。幸せになるのよ。いい? わかった?」

 えっ? 朝倉先生の過去?

「はい、はい、わかりました。もう、勘弁してくださいよ。滝沢さん」
 朝倉先生は、笑いながら受け流していた。

 私にだって、将嗣との過去があるように。この年になれば、いくつかの恋愛の過去ぐらい誰にだってある。
 良く考えたら、私、朝倉先生にお姉さんたちがいる事ぐらいしか知らないんだ。
 幾度も助けてもらっていて、朝倉先生に恋心を抱いたとしても朝倉先生から見たら私は、ただの仕事相手。人の良い朝倉先生は親切で手を貸してくれているだけで、特別でもなんでもない。

 まあ、いつもボロボロで、マイナス得点の時にしか会っていないから女としてどうよ? って、話よね。
 ザ・パーフェクトの朝倉先生の恋人になんて相応しくない事ぐらい、わきまえないといけない。
 はぁ、自分がもっと、要領が良かったら見込みのない恋心なんてサッサと捨てて自分にとって有利な道を選択できるのに……。

 自分の心なのに自分でままならない恋心とは厄介な病だ。
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