御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 手や顔に絵の具をつけたままで、夏美はテーブルについた。隆が緑茶をいれてくれ、お弁当も温めてくれた。
「いただきます!」
 仕事を終えた後のご飯ってほんとに美味しい、と夏美がぱくぱく食べていると、隆のスマホが鳴った。
 隆は着信したばかりのメールを見た。すると、顔つきが険しくなっていくのが夏美に、はっきりとわかった。
「隆さん、なんかあった?」
 隆が眉間に皺を寄せたまま、息を吐いた。
「夏美ちゃん。それ食べたら元気出た?一緒にリリス出版に行くパワー残ってる?」
「うん。お弁当食べたからしゃっきりしたよ。行けると思う」
 夏美としても、自分でパネルを戸坂に渡したかった。夏美ちゃん、と隆は低い声で言った。
「僕、ちょっと怒るかもしれない」

 リリス出版の会議室へ、隆と夏美は行った。どうして絵本の編集部じゃないんだろう、と夏美は不思議だった。しかし、その疑問も口に出せないほど、隆の怒りのオーラが伝わってきていた。
 隆さん、どうしちゃったの…?
 ただならぬ隆の様子に不安に感じながらも、会議室のドアを開く。そこに、戸坂がいた。
「副社長。夏美さん。今、連絡しようとしたところだったんです」
 戸坂が、いつになく高揚した笑顔を見せた。
「絵が、見つかったんです。夏美さんの、昨日持ってきてくれたパネルが」
 戸坂のいる机に、確かに昨日届けたパネルがある。
「えっ」
 夏美は驚いた。
「見つかったんですか?!」
「はい。さっきバイク便の会社から間違って持って帰っていたと連絡がありまして。今、現物が届いたところです。編集部もバタバタしていましたから、渡し間違えたんでしょうね」
「戸坂。茶番はそれくらいにして」
 黙っていた隆が口を開いた。
 夏美は目を見開いた。隆さん、怒ってる…!
「夏美ちゃんが昨日持って来たパネル、持ち出したのは、戸坂。お前自身だよね」
「副社長、何を」
「バイク便が間違えて持って行ったなんて、現実的じゃないよ。冷静な戸坂にしては嘘が下手だな。そう。僕は、戸坂とのつきあいが長いから、戸坂のことはよく知ってるつもりだ。僕が知ってる戸坂は、印刷前の絵をなくすような、そんなバカじゃない。だから、最初からこの話を聞いたとき、何かおかしいと思ったんだ」
「違いますよ、ほんとに」
「戸坂、お前、昨日の夜、新幹線でM県のるきちゃんに会いに行っただろう」
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