冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 京子も陽も、私を散々働かせては辛らつな言葉を投げ続けた。
 行きたくなくても行かざるを得ず。平日に勉強をする時間がないため、週末を使って根詰めてなんとか成績は保っていた。
 しかし卒業後の就職先を考えたいのに、そこまで身体的にも体力的にも余裕がなかった。

 せっかく面接の機会がもらえても、その日を迎える前に私を雇うわけにはいかないと門前払いが続いた。自分には雇ってもらえるような価値がないのだと、すっかり落ち込んでいた頃、信じられない言葉を京子に言われた。

『愛人の子が、まともな職に就けるわけがないでしょ』

 そのいやらしい笑みに確信した。名前だけで不採用にされていたのは、京子が裏で手を回していたのだと。実際に彼女は、さらにそれらしく仄めかしてきた。

 進学する余裕など、うちにはない。当てにするつもりなんてなかったけど、京子からは『三橋家のお金は遣わせない』とも言われていた。

 卒業後の進路がまったく決まらなくて途方に暮れていた頃、唯一の友人だった凛のご両親が、『うちで働かないか』と声をかけてくれた。

 店主も奥さんも、他人と話すのが苦手な私を責めはしなかった。

『優ちゃんが店先で笑顔を見せてくれるだけで、客足がうんと伸びるのよ』

『そうだそうだ。優ちゃんはもう、うちの娘みたいなもんなんだから、なんの遠慮もいらんよ。凛も進学で他県に行っちまうからなあ。優ちゃんがいないと、寂しさで美味しいケーキなんて作れなくなっちまいそうだ。なあ、母さん』

『うんうん』

 ふたりはそんな愛情こもった言葉を、いつも私にかけてくれた。実子である凛も『親は優ちゃんにまかせた! 私はちょっと自由にしてくるからね』と意気揚々と引っ越していった。

 不向きな仕事だとわかっていたが、そんな優しい人たちに囲まれていれば、自宅とこのお店にいる間は穏やかな気持ちで過ごせていた。

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