冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「い、嫌です。一矢さんだけは、絶対に譲りません」

「なんですって」

 手を上げようとする陽に、腕で防ぎながら抵抗した。数回頬や背中をぶたれたが、屈服するわけにはいかないと耐えた。

「一矢さんだけはだめなんです。絶対に、絶対に譲りません」

 初めて見せる私の抵抗に、陽の怒りが爆発しそうなのを感じる。
 それでも、どうしたってこれだけは譲りたくない。涙でぐちゃぐちゃになっても、引っ張られて服が乱れても、かまっていられなかった。

「一矢さんだけは、一矢さんだけは……」

「いい加減にしなさいよ!!」

 必死で抵抗した。
 でも、どうしたって陽には適わなくて、ついにはなにも持たないまま玄関の外へと追い出されてしまった。

「お願い、ここを開けて」

 ドンドンと扉を叩くも、陽はまったく取り合ってくれない。

「お願いだから……」

 このまま騒ぎ続ければ、隣人らに目撃されるかもしれない。一矢さんが変な目で見られてしまうと気づいて、しばらくして手を止めた。

 とっさのことで、スマホも持ち出せなかった。それどころか、靴も履いていない。かろうじてスリッパを引っかけているぐらいだ。

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