冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「男に貢いだり貢がせたり。男漁りが旺盛で、連れている相手がいつも違う。そこへ出入りする同年代の人の間では、知らない人がいないほどだそうですよ」

 一矢さんの話に耳を傾けているうちに、父のこめかみはぴくぴくとひきつり、眉間にますますしわが寄っていく。

「なんだって!? 陽、お前はそんなことをしていたのか!!」

「お父さんには関係ないじゃない! 愛人を囲っているくせに」

「三橋社長」

 再び勃発しそうな親子喧嘩を遮るように、一矢さんが鋭い声を発した。

「困るんですよ、身内にそんな素行の悪い人間がいるのは」

 冷淡にそう言い切った一矢さんに、まさかそう返されるとは思っていなかったのか、父はまるでギリギリと音が聞こえそうなほど歯を食いしばった。

「陽」

 低い声で娘を呼んだ父は、なにかを決意した顔をしている。

「お前には、早急に嫁いでもらう」

「はあ!?」

 反発する姿勢は見せた陽だが、それまでとは違う父の鬼気迫るような様子に、若干腰が引けているようだ。

「これ以上好き勝手されて、会社の信用問題に関われば取り返しのつかないことになる。本来なら優に受けさせようと思っていた話だが、こうなってしまって断っていた。おそらく、まだ間に合うだろう。背に腹は代えられん。お前に決めた」

「どういうことよ」

 そんな話は一度だって聞かされておらず、私も内心驚いていた。
 心配そうにこちらを見てくる一矢さんに、知らない話だと伝えるために首を横に振る。

「京子の遠縁にあたる家だ。四国を拠点にした同業者の社長の長男で、次期社長候補の男だ」

 その情報に、一矢さんが不機嫌そうに片眉を上げた。彼は父の話の意図を理解したようだ。後で聞かせてもらえるだろうか。

「嫌よ。東京以外でどう暮らせっていうの!?」

 物に溢れた賑やかな都会暮らしを謳歌してきた陽には、他県へ行くのはたしかに嫌なのかもしれない。しかも、ずいぶん遊びまわっていたようだ。そんな生活に慣れ切っていれば、なおのこと。

「お前に拒否権はない! 問題を起こした人間には、俺の言う通りに従ってもらう。誰か、陽を連れ出してくれ」

 入口の外で控えていたのか、数人の使用人が入室してきた。

「逃げ出さないよう、見張っておけ」

 最初の勢いこそなくなった陽だったが、それでもまだ抵抗しながら引きずられるようにして出ていった。

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