冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 父が仕事をしている姿など、一度だって目にしてこなかった。私の知る父はいつも母と私に高圧的な態度で接するばかりで、優しさの欠片も見つけられなかった。

 でも、会社の社長をしているぐらいだ。仕事のときは、きっとちゃんとしているのだろうと思っていた。
 それなのに……いら立ちが大きすぎたのだろうか。私たちがいるにもかかわらず、とんでもない姿を晒している。
 急に始まった親子喧嘩をどうすることもできず、ただ茫然と見つめた。

「だいたい、男を追いかけて海外まで行ったお前にすべての原因があるんだ」

「しょうがないでしょ。この家が窮屈なんだから」

「挙句、すっかり話のまとまっている緒方との関係を乱すような暴挙を……いい加減にしてくれ」

 気持ちの高ぶりを抑えきれなかったのだろう。ついに父が陽に手をあげると、頬をぶたれた陽は憎しみのこもった目で睨みつけた。


「そのあたりにしておきませんか? 関係者がそろったんだ。一度落ち着きましょう」

 一矢さんの声に我に返った父は、若干気まずそうな雰囲気のまま陽を無理やり着席させた。

「あなたたち親子の問題は私に関係ありませんが、それが妻に向くようなら私も黙っていませんよ」

 一矢さんが私を庇う発言をした途端、父も陽も私に鋭い視線を向けてきた。その視線をシャットアウトできない状況のため、代わりに一矢さんは再び手を握ってくれた。

「まず、陽さんですが……ご存じですか? 有名な噂を」

「噂?」

 ジロリと陽を睨んだ父に対して、彼女はそ知らぬふりをした。

「お嬢さんは、それなりの地位がないと入れない会員制のバーでは有名になっていますよ。〝三橋の問題児〟と」

「は?」

 寝耳に水だったのだろう。困惑した父はその真意を探ろうと、陽と一矢さんの間で視線をさまよわせた。

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