冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「そ、そうだ。さっきの陽お嬢様の……」

「優。呼び方が戻っているよ」

 つい癖で言ってしまったが、彼女とはもうそんな関係ではない。

「陽さんの結婚相手って……」

 一矢さんは私たちの入れ代わりがわかった時点で、念のためにと三橋家について詳しく調べたと言っていた。先ほどの表情からすると、きっとなにかを知っているはずだ。

「ああ、次期社長候補ってやつだね。まさか優との縁談を仕組んでいたとは知らなかったが」

 途端に不機嫌そうになった一矢さんを宥めるように、ポンポンと彼の膝を軽く叩いた。

「あくまで、候補のひとりにすぎない男だ。なれる見込みはほぼないだろうなあ。四十五歳になる今の今まで、仕事は腰かけ程度で遊び惚けてきた人物だ。隠し子がいるなんていう噂もある」

 とんでもない内容に、驚きを隠せない。そんな人の元へ嫁ぐ可能性もあったと思うと、ぞっとしてくる。

「さすがに創業者の直系の孫を、いつまでもふらふらさせておくわけにもいかない。ともすれば、取り返しのつかない問題を起こしかねないからな。そこで、わずかでもつながりのあるところに、手あたり次第婚姻の打診をしていたそうだ。でもなあ、どう考えても後を継ぐのは弟の方だと聞くし、トラブルメーカーでしかない男と結婚してもデメリットしかない。おそらく、金でも積まれて頼まれたんだろうな。俺との結婚と同時期に話が上がっていたらしい」

 そうなってくるともう、陽が盛大な家出をしてくれたことに感謝すら感じてしまう。決して彼女の不幸を望むわけではないが。

「三橋陽の家出は、ありがたかったな」

 どうやら一矢さんも同じように思っていたようだと、心の中で苦笑した。

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