冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 車に乗り込んでも、ふたりともしばらく口を閉ざしていた。

 流れる景色を見つめながら、さっきまでのやりとりを思い起こしてみる。
 三橋正信という人間は、本当に家庭を顧みてこなかったようだ。わかっていたとはいえ、それを目の当たりにしてしまえばなんだか気持ちが沈んでくる。

 父は一番近くにいた人間を、ひとりとして幸せにできなかった。
 それに、あの家の人間は互いに歩み寄ろうとしない。他者を攻撃することで、表面上つながっていただけだと思う。皮肉にも私と母の存在は、あの人たちにとってなくてはならないものになっていたのかもしれない。

 その影響が、陽の弟の翔太にまで及んでいなければよいがと思う。でも、京子が徹底的に囲って育ててきたと聞けば、あまり期待は持てない。

「優?」

 すっかり考え込んでいると、隣から一矢さんが声をかけてきた。

「大丈夫だったか?」

「はい。今回は、全部一矢さんにまかせっきりにしてしまって……」

「いや、当然だよ。俺は優の夫なんだからね。それより優、最後にちゃんと言えたな」

 赤信号で車を止めると、一矢さんが頭を撫でてくれた。私たちは年齢が離れているから、はじめは子ども扱いされているような気がしていた。
 でもこれも彼の愛情表現なのだと、今の私はわかっている。嬉しさに思わず目を細めれば、一瞬のうちに触れるだけの口づけが降ってきた。
 ピキリと固まる私をくすくす笑いながら、一矢さんは車を発進さる。

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