冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「優。緒方総合病院だが、院長もいろいろと思うところがあったようで、話し合った結果院長を退くと決めた」

「え?」

 一矢さんのご両親とは、一度簡単に挨拶をして以来顔を合わせていない。このご一家にも、蟠りがあるのだろうと薄々は感じていた。

「一年後をめどに、俺が院長を継ぐことになった」

「そう、ですか」

 それはとても大きな出来事だとは思う。けれど、無知な私にはその大変さが掴みきれない。

「だが、俺もいずれはほかの人間に院長の席を譲ろうかと考えている。まあ、どれぐらい先になるかは未定だが……」

 どういうことだろうか? 話が読めずに一矢さんを見つめれば、停止したタイミングで彼も見つめ返してくる。その表情は語っている内容に似つかわしくなく、とても穏やかだ。

「聞いて欲しい話がある」

 小さく頷くと、一矢さんは自身の話を始めた。

「俺には、姉だけでなく兄もいるんだ。兄は跡取りとして幼少期から様々な教育を受け、両親や祖父母の期待を一身に背負って育ってきた。数年後に生まれた俺は、兄に比べればさほど手をかけてもらわず、放置気味だったようだ。良吾に指摘されて、そうかもなぐらいの認識だが」

 阿久津さんがとにかく一矢さんを気にかける理由は、もしかしたらこのあたりの事情からかもしれない。

「俺の名前は、祖母がつけた。長男でもないのに名前に〝一〟の字がついているのは、あまりに囲われて育つ兄に、祖母がなんとなく不安というか危機感のようなものを抱いたらしくてね。あえて次男を表すような字を使わなかったのは、俺が兄と対等の権利を有する子だという主張だそうだ」

 一矢さんは淡々と話しているが、育ってきた環境に思うところはないのだろうか?

「祖母の勘は当たったのかもな。次期院長にと言われ続けた兄が、突然駆け落ちするように結婚を決めてしまった。お相手は個人病院を営んでいるところのお嬢さんで、いずれ兄がそこを継ぐらしい」

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