冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「それは……よく許されましたね」

「まったくだ」

 一矢さんは苦笑しているが、なんだか笑えない話だと思う。隣に座る彼がどこか無理しているようで、なんだか心が苦しくなってしまう。

「当時の俺はまだ学生の身で、将来については自分の進みたい道へいけばいいと言われていた。つまり、兄の手助けとしても求められていなかったんだな。それならと、俺はへき地医療に関わりたいと思っていた。それが、突然呼び戻される事態となった」

 それを腹立たしいとは思わなかったのだろうか。なんだか一矢さんが都合よく扱われているようで、彼の心情を思うと複雑な気持ちになる。

「優。俺は大丈夫だから、そんな顔するな」

 よほど感情が出ていたのだろう。一矢さんが宥めるように頭に手を置いた。

「優さえついてきてくれるのならだが……何年か、もしかしたら十年単位先の話になるかもしれないが、院長の座を次へ譲ったら、俺はその後の将来をへき地医療に費やしたいと思っている。たとえば……有里子さんたちが住んでいるような場所で」

「え?」

 予想外のところで母の名が出て、思わず声を上げた。隣に座る一矢さんは、変わらぬ表情で前を見据えたままだ。

「叶うかどうかはわからないが、いつか、有里子さんの実家方面へ移り住んで、診療所の仕事に携わりたいと思っている。まあ、都合よくポジションが空くとは限らないが。だめでも、行先候補はいくらでもあるだろう」

 それは思ってもみない申し出だった。

「私に、気を遣ってとかではなくて……?」

「ああ、もちろん。良吾に聞いてみるといい。あいつは昔から俺がそうしたがっていたと知ってるからな。それでな、優。もし優に興味あって、時間も持て余しているのなら、俺から提案がある」

 どんな提案かと、思わず背筋が伸びる。一矢さんからの提案なら、なんでも無条件に従ってしまいそうだ。

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