冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 そうして迎えた日曜。ホテルの入り口まで母に付き添ってもらいながら、会場へやって来た。

 プロの手によって仕上げられた自分の姿は、いつもの野暮ったい雰囲気とは違って幾分か綺麗になったように見えた。

 顔合わせは淡々と進められた。
 言葉を発するのは、正信と相手の父親のみ。

 夫となる緒方一矢は、最初に挨拶をして以来ひと言も発しなかった。名前すら名乗らなかったかもしれない。その整った容姿にははじめから眉間にしわが寄っており、最後まで消えないままだった。
 私よりうんと大柄な彼がそんな様子だと、威圧感で苦しさすら感じるほどだった。

 彼がこの結婚を受け入れていないと、そのすべてから窺えてしまう。

 母からは、少しでも印象をよくしておくためにも『笑顔でね』と言われていたのにもかかわらず、私の表情は終始強張ったままだった。

 親たちの白々しいやりとりが終わると、『あとは若い者同士で』などとお決まりのセリフを聞くこともなく解散となった。

 緒方家側の記入が済んだ婚姻届を受け取っていた父は、早速私に記入させた。あらかじめ決めておいた日に、三橋の人間が提出する約束になっている。



 それから一カ月ほどした六月に、私と一矢さんは正式に夫婦となった。
 皮肉にもジューンブライドだと気づいたのは、籍を入れて少ししてからだ。式については話にも出なかった。






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