冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 今の口ぶりからすると、もしかして彼には本気で付き合っていた女性がいたのかもしれない。しかも、病院を継がせたい子どもまでいるということか。
 わけあって、結婚が許されなかったのだろうか。そうでなければ、こうして私と籍を入れるはずがないのだから。

 少しの笑みも見せない人だと思っていたが、そんな事情があるのなら当然だと納得してしまう。
 今は笑みどころか、まるで睨むような鋭い視線を私に向けている。俯いていても、その気配だけで怯みそうになってしまう。

 それでも、彼の身の上を考えるとなんだか申し訳なくて、さっきからズキズキと胸の痛みが増している。そっと胸元を押さえてみても、なんの効果もなさそうだ。

「だから、俺は君を抱くつもりはない。とはいえ、他所で遊ばれてこれ以上醜聞が広がるのは困る。結婚した以上は大人しく過ごすんだな」

 醜聞?
 もしかしたら、私が愛人の子だと知られているのだろうか? 父である正信(まさのぶ)からはなにも言うなとしつこく念を押されたが、人の口に戸は立てられない。いくら私が沈黙を貫いたとしても、思わぬところから耳にしてしまう可能性もあるだろう。
 彼は、私が本来の花嫁と入れ代わっていると気づいているかもしれないが、それを尋ねてしまえば藪蛇になりかねない。こちらからはなにも言わないでおくべきだろう。

 彼にとって私との結婚は、相当不本意なものだったに違いない。できれば解消してあげたいと思うが、なんの権利も与えられていない私にはどうしようもできない。

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