冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 自身の食事を終えてキッチンに向かう。彼のために用意した朝食はどうなったかと内心ドキドキしていたが、リビングから見たダイニングテーブルにはなにも物が置いてないように見える。本当なのかどうか確かめたくて、思わず駆け寄っていた。

「食べて、くれたのかしら?」

 それではと流しに近づくと、一矢さんのために使った食器が綺麗に洗われていた。食べずに捨てられた様子もない。

「よかった」

 勝手に用意して、もしかしたら迷惑だったかもしれなかった。
 でも、彼はちゃんと食べてくれた。それに心底安堵している自分は、ずいぶん緊張していたようだ。

 自分の食器を片付けてふと冷蔵庫の方を振り返ると、そこには昨日まではなかった小さな紙が貼られいると気づいて手を伸ばした。

【ごちそうさま】

 少し角ばった几帳面さを感じる文字は、一矢さんが書いたものだろう。まさかそんな言葉がもらえるとは思っておらず、ふいに胸が温かくなる。

「やっぱり、優しい人だ」

 わずかひと言のメッセージとはいえ、朝の忙しい時間帯にこれを用意するのは手間だったと思う。それ以前に、言葉を残そうと思いつきもしない人だって多いだろう。

 これまで他人の悪意に晒されることが多かった私には、こんな些細な気遣いがとにかく嬉しくて、これからも拒否されない限り食事の用意は続けていこうと決めた。

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