冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 私の存在って、なんだろう。

 嫁いだ相手である一矢さんには、病院を継がせたいと思う子がいる。後継ぎを生む義務さえもないこの結婚に、なんの意味があるのか。

 自分だけが邪魔者のだと、嫌でも自覚させられる。

 三橋を騙って嫁いだのだ。誰かに必要とされたいなどと願うのは、人を騙している私には過ぎた思いなのだろう。

 それよりも、彼が思いを寄せる女性との間に生まれた子どもは、かつて私が苦しめられてきたように〝愛人の子〟と言われてしまうのだろうか。
 それがどれほど惨めな気持ちにさせられるのか、私は知っているはずなのにどうすることもできない。

 ただひたすら、出しゃばらずに慎ましく過ごすしかない。そんなのこれまでだってしてきたのだから大丈夫。私は平気だと、必死に自身に言い聞かせた。

 こんな私さえ気遣ってくれるような一矢さんだ。きっと彼女もお子さんも辛い思いをさせないよう、全力で守るに違いない。

 電話を切った後しばらく動けずにいたが、気づけばもう十五時近くになっていた。

「いけない。ゆっくりしすぎたわ」

 今の私には、いかに一矢さんと鉢合わせないかという考えしかない。素早く洗濯物を片づけると、今日も早くから夕飯の支度にとりかかった。

 出来上がった食事は、昨日と同じように冷蔵庫に入れた。そのタイミングで、一矢さんが残してくれた今朝のメッセージを思い出した。

 もしかして、テーブルに出ていなければ食事の存在に気づかないかもしれない。必要とされているかはわからないが、彼がもし食事もとれずに帰宅していたら、養ってもらっている身としては申し訳ない。

 かわいらしいメモ用紙なんて持ち合わせていないから、なんの飾りけもない白い紙に【お夕飯、よかったらどうぞ】と記した。それを今朝彼がしてくれたように冷蔵庫に貼りつけておいた。

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