冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 今夜の帰宅は何時になるだろうか。なんだかそわそわとしながら自室で過ごしていた。

 二十二時を過ぎても、彼は帰ってこない。
 手にした本も、一矢さんの帰宅を気にするあまり内容が一向に頭に入ってこない。諦めて閉じてしまうと、代わりに今朝受け取ったメモを眺めた。

「今夜は食べてくれるかしら?」

 思わずそうつぶやいた瞬間、玄関がガチャリと開く音が聞こえて思わず息を呑んだ。無意識のうちに、呼吸を止めてしまう。

「ただいま」

 返すべきかもしれないのに、不意打ち過ぎて言葉が出てこない。
 彼の方も、それほど大きな声を出したわけではない。それならこのまま聞こえなかったふりをしても許されるかもしれないと、心の中で言い訳をした。

 一矢さんの静かな足音は、私の部屋の前でも特にリズムを変えずに過ぎていく。
 おそらく、着替えをしに自室に向かったのだろう。過ぎ去ってしまえばその生活音はさほど聞こえてこない。

 リビングの方へ入っていく気配は感じたものの、そこでどう過ごしているかまでは掴めない。
 こんなふうに勝手に一矢さんの動向を探るなんて、彼にしてもいい気はしないだろう。自分の家なのにくつろげなくなってしまうのは申し訳ない。
 これ以上耳を澄ませていてはだめだと、部屋の電気を消してベッドにもぐりこんだ。

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