冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「どれにしよう」

 店内の雰囲気から察していたけれど、かわいくて女の子らしいものばかりが並んでいる。これまでの生活ではあまり縁のなかったもので胸が躍る。

 思い返してみれば、今までは過度な贅沢とは無縁の日々だった。
 実父から振り込まれる生活費は、決して高額というわけではなかった。それに母は、あの人と縁を切るために肩代わりしてもらった医療費を返済したいと、いつも節制していた。
 もちろん私もそれに賛成していたから、稼いだお給料はほとんど生活費と貯金に回していた。

 一度だけ、『たまには自分の欲しい物を買っていいんだよ』と母に勧められて、初めて女性らしいワンピースを買ったことがあった。それは私の稼いだお金で買ったもので、決して父からの援助ではない。
 それなのに『援助してもらいながら贅沢とは、ずいぶんといいご身分ね。色気づいちゃって、やっぱり愛人の子ね』と、目ざとく見つけた京子に言われてしまえば、もう二度と袖を通す気にはならなかった。

 京子のあの蔑んだ目を思い出すと、思わず身を縮こませそうになってしまう。
 いつも他人の目が気になって視線も上げられなくて、思いも自由に言葉にできない息の詰まるような日々だった。

 それが今は、三橋の人間に怯えずに過ごせている。父から高圧的になにかを言われるわけでもないし、京子の襲来もない。
 これが誰かの犠牲の上に成り立った生活なのはわかっているからこそ、せめてこれ以上、一矢さんに不快な思いはさせたくない。

 そんなふうに思いながら散々迷って決めたのは、猫型の大きめのポストイットだった。これなら貼る手間も省けるし、なにより見た目のかわいさがほっこりさせてくれる。

 その後向かったスーパーは、これまで行き慣れた雰囲気と似ていてほっとした。
 マンションから歩いて十分ぐらいだ。リュックを用意しておけば、少々多めに買い込んでも大丈夫だろう。

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