冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「ご、ごめんなさい」

 思わずこぼれ出た謝罪は、私の精一杯だった。

「謝るようななにかをしているのか」

 食事の用意は決して厭われていないと思うが、本当のところはどうだろうか。押しつけになっていたかもしれない。

「か、勝手に、用意をしてしまって……」

「それはかまわない」

 再び謝罪を口にしようとするのを遮るように、一矢さんが断言した。
 思い切ってチラリと視線を向けて彼の表情を探れば、たしかに怒っているわけではなさそうで、少しだけ肩の力が抜けた。

「いつもこんなに早くから?」

「あ、あの……はい」

 不意に彼の手がこちらへ伸ばされて、思わずビクリとしてしまった。身動きが取れずにいたが、一矢さんはコンロの火を消しただけだった。

「焦げてしまうぞ」

 ハッとして見れば、巻くのを待っていたはずの卵焼きは、すっかり固まってしまっていた。こんな状態のものを彼に出すのは、さすがにはばかられる。

「ど、どうしよう……」

 一矢さんがいる状況も忘れて、思わず焦った声がでてしまう。巻きそこなったこれを隠そうにも、目撃されていれば元も子もない。

「かまわないだろう。食べられなくなったわけでもあるまい」

「え?」

 味は大丈夫だと思うが、不格好になってしまった卵焼きでもいいのだろうか。
 別に捨てるつもりはない。朝と昼に分けて自分が食べればいいだけだから。それよりも代わりに出す物を考えねばと困窮していた。

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