冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 縁談の話は、そのまま進められるのだろう。それならば、時間の取れたうちに報告をしておこうと、高校時代からの友人を呼び出していた。

「一矢から飲みに誘ってくるなんて、珍しいな。今日は飲んでもいいのか?」

「ああ。休み返上で勤務が続いていたから、今日ぐらいはゆっくりしろって追い出されたぐらいだ」

 どこかほかとは一線を画したしゃれたスーツを着こなすこの男、阿久津良吾(あくつりょうご)とは、卒業してずいぶんと経った今でも時折顔を合わせる仲だ。腐れ縁、とでもいうのだろう。
 かなり早く到着していたようで、テーブルには複数の料理とビールのジョッキが置かれている。

「医者ってのも大変だねぇ」

「まあな。お前の方も、そろそろ本格的に忙しくなるんじゃないのか?」

 国内大手のアパレルメーカの社長を父に持つ良吾は、いずれ跡を継ぐことになると聞いている。勉強のためにと他企業で働いていたが、数年前には自社に戻ってその準備をはじめていたはずだ。

「一矢ほどじゃないけどね。まあ、確実に自由はなくなってるな」

「そうか」

 独身貴族を謳歌してきた良吾にはさぞ息苦しいだろうと、思わず苦笑が漏れた。

「それで、急に呼び出した理由は? まさか単に俺に会いたくなったのかって、嬉しくて思わず女の子との約束をキャンセルしちゃったよ」

「気持ち悪い言い方をするな。まだふらふら遊び歩いているのか」

 良吾のこの軽薄な物言いに、これまで何度か気が楽になったのは否定しない。だが、あまり関心もしない。

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