冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 なにやらぶつぶつ文句を言う良吾を軽く流して、本題に入った。

「結婚することになりそうだ」

「は? 誰が?」

 この状況で、俺以外の誰だというのだ。

「俺に決まってる。三橋製薬の社長令嬢だとさ」

「また突然だな。三橋、三橋……」

 ひとりで考え込んでしてしまった良吾をよそに、まだあまり実感のわかない結婚につい思いを巡らせた。
 そういえば俺は、結婚する相手が三橋の娘だという以外になにも知らないと思い至って、少々愕然とした。これから先、長い付き合いになるだろう女性なのだ。少しぐらい知っておくべきかと、父に詳細を尋ねようと決めた。

「うわっ、三橋ってあの三橋か」

 悪いことでも思い出したのか、いかにも嫌そうな声を出す良吾に眉をひそめた。

「なにかあるのか?」

「なにかもなにも、ある意味なんでもありな女だぞ」

「は?」

 まるで言葉遊びでもしているかのような発言に、茶化されているのかとすら思ってしまう。

「三橋と言えば、あれだ。〝三橋の問題児〟」

「どういうことだ?」

 穏やかじゃない単語を聞いて、思わず顔をしかめてしまう。

「三橋製薬の娘だろ? 結構有名な話だよ。一矢、クラウズっていうバーは知っているよな?」

「ああ」

 会員制のバーで、ある程度社会的な地位のある者しか入れないような店だ。
 良吾に連れられて俺も数回足を運んだが、どこかの社長令息や令嬢ばかりが集まる非日常的な雰囲気の空間だった。俺にはどうにも肌に合わず、行くのをやめたが。

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