冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 良吾から電話を受けたのは、一緒に飲んだ数日後だった。

『一矢。三橋の問題児だけど、やっぱり真っ黒だぞ。知り合いらに聞いたら、数カ月前まで変わらず好き放題してたってさ』

「そうか」

良吾の口調は、怒りを通り越して呆れすら感じる。

『時期的に、一矢との縁談の話が出る少し前までかな。それ以降最近までは、さすがになりを潜めていたらしいが』

「そうか」

 もはやそれ以上返す言葉が見つからなかった。考えるまでもなく口を突いて出る受け答えを繰り返すのみだ。
 そんな女性と夫婦生活を送るなど、俺には無理だ。受け入れられそうにない。

『なに納得しちゃってんだよ!』

「いや、そんなつもりはない。まあ、仮面夫婦、もしくは家庭内別居かな。避けられないから入籍はするが、相手はできない」

 ずいぶんと殺伐とした生活になりそうだ。
 父からは、後継ぎをもうけるようにとうるさいほど言われている。だから、別居婚というのもさらになにかと言われそうで鬱陶しい。素直に従う必要はないかもしれないが、そんなものに仕事の邪魔をされたくはない。

『なんで一矢がそんな思いしなきゃなんないんだよ』

 良吾のこういう部分が羨ましい。
 俺もそんなふうに堂々と嘆ける性格だったら、もう少し生きやすかったのかもしれないなと、他人事のように思ってしまう。

「まあいいさ。幸い、姉のところに双子の男の子が生まれたんだ。本人さえ望めば、そのどちらかに後を継いでもらえばいい。そうでなくとも優秀な医師がたくさんいるし、これから育てていけばいずれその誰かにまかせられるだろ。なんなら経営に特化した人材を呼んでもいいのだから、なんら問題はない」

 緒方家の人間が常に院長を務めるなど、ナンセンスな話だ。そこに固執している経営の才のない父親を見ていれば、まるで反発するかのようにその思いが強くなる。
 病院の経営が安定して、たしかな医療が提供できるのなら、それでいいじゃないか。

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