冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 外見にしたってそうだ。
 以前の彼女は髪を明るい色味に染めて、全身をブランド物で固めた派手な女性だと聞かされていた。だが俺のところに来た優の髪は、染めた経験などないかのような美しい黒髪だった。もしかして黒く染めたのかと思いもしたが、そんな様子もなさそうだ。

 服装も、ブランドどころかどこか着古したカジュアルなものばかり。靴なんてずいぶん履き込んだスニーカーを二足持ち込んだのみ。

 化粧にしてもいつもナチュラルで、ほぼ素顔だと思う。それが予想外にかわいく見えてしまったなど、良吾には言えないな。

 渡したカードが使われたのは、食料品のみ。一度は近所のスーパーで買っていたが、二度目以降は少し離れた店での使用履歴だけだ。歩いていくには不便だろうと不思議に思ったが、調べてみればこちらの方が安いからではないのかという結論に至った。

 これは聞いていた話と違いすぎると、結婚してひと月ほどした頃に良吾を呼び出して話して聞かせた。

「良吾、三橋の問題児って散財好きだったよな?」

「そうそう。まさか、もう相当使い込まれたのか? 結婚して間もないのに……」

「いや。カードを渡してあるが、食料品にしか使われていない」

 新しい服を着ている姿も見ないし、相変わらずスニーカー以外の靴は見たことがない。
 おまけに、バス用品にしても愛用品を持ち込んだ様子もなく、元から置いてある俺用のものを使っているようだ。男女共用だから問題はないのだが、あまりにも不自然ではないだろうか。

「今だけじゃない?」

「ひと月も経つぞ。聞く限り、我慢のできる女性じゃないと思っていたが」

 さすがに自分のいない昼間になにをしているかまではわからない。
 だが、二日に一度のペースで食料品の買い出しに出かけているとカードの履歴でわかるし、よく見れば普段手入れの追いつかない場所の掃除がされているのにも気がついた。ワイシャツのアイロンがけだってされている。俺の部屋には入れないから、仕上がったものはランドリースペースにかけられているが。

 もちろん、すべて彼女がやっているのだろう。それを他人が代行しているとまでは疑っていない。とすると、遊んでいるような時間はなさそうだ。

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