冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 でも、考えてみればそうとばかりも言えないと気づいてしまった。
 答えは明白だった。友人が本命の方を知らないとして、ここで妻以外の女性を紹介しようものならば、一矢さんは実父と同類になってしまう。妻がいるにもかかわらず、他所で女性を囲って子どもまでもうけてしまうような人だと。たとえ親しい相手だとしても、一矢さんはそう思わせないようにと考えたのだろう。

 一矢さんはこちらが困ってしまうぐらい、律儀で融通の利かない人だ。

 だから彼は、表面上の事実を決して捻じ曲げない。側から見たら、その裏の事情なんて関係ないという世間の目を欺くために。

 書類上の妻は誰で、そうでないのはどちらか。それがすべてなのだ。

 そして彼がその紳士な態度を本当の意味で向ける相手は、私ではなく本当に愛している人なのだ。その人を守るための行動に違いない。

「その通り、ですね」

 一矢さんがこちらを伺うような素振りを見せたが、なにも反応できなかった。

 どうせなら、冷たいままの姿を貫き通して欲しかった。
 彼が見せるほんの少しの優しさや気遣いは、慣れない私にとって必要以上に響いてしまったようだ。彼が単なる同居人だとは、もう思えそうにない。

「君には最初にいろいろ言ってしまって申し訳なかったが、友人を自宅に招きたい」

「わかりました」

 ここは一矢さんのマンションなのだし、養ってもらっている以上は断るなんてできない。

「さすがに食事時は避けるつもりだ。君の手を借りることになってしまうが、日時が決まったらケーキと飲み物ぐらいを出せるように用意をお願いしたい」

「はい」

 それぐらいなら、私にもできる。
 会話はここまでだろうと判断して、複雑な心中を隠したまま席を立った。





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