若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 精一杯の自制心を発揮させて、カナトは鋭い声をあげる。

「……瀬尾、行き先変更だ。カイマナ・カミオオオカ・インペリアルホテル。海洋の鳥海って言えば話は通じる」
「かしこまりました」

 岩のように動かなかった黒スーツの運転士、瀬尾はカナトの言葉に従い車のスピードをあげていく。さきほどまでののんびりとした走りとは異なる、どこか焦っているようなふたりに、マツリカがきょとんとした表情を向ければ、カナトが彼女を安心させるように結い上げられた髪を撫でる。

「カナ、ト……?」
「ごめん、マツリカ。とっておきの場所に行く前に、一仕事だ」
「え」
「上大岡グループの支配人のなかに、当時の事故の関係者がいる。ご高齢ゆえ詳細なはなしをうかがうことは難しいかもしれないが、貴女の父親について知ることができるかもしれない」
「そ、それを早く教えてください。あたしはそもそも……」

 危うく自分がすべきことを忘れるところだったとマツリカは息をつく。
 このままカナトに気持ちいいことを教えられて忘れてしまったら、死んだバパに申し分が立たない。

「わかっているよ。貴女の憂いが晴れるまでは、俺も我慢する」
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