若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「違う、違うのマイくん! あたしは鳥海に復讐しようなんて思ってない! ダパのことだって誤解だってカナトが教えてくれたし、彼はずっとあたしのことを」
「りいか。オレの言うことがきけないの? 困ったなあ」

 先ほどとは打って変わった表情で、マイルはマツリカを突き放す。ぽすん、とベッドに投げ出されたマツリカを見下ろして、くすりと嗤う。

「やっぱりさきに消毒しないと駄目かあ」
「消、毒……?」
「あの男と過ごしたこと、されたことをなかったことにするのさ、コレをつかって……ね」

 どこか誇らしげに上着のポケットから取り出したちいさな注射器を見せられ、マツリカは恐れ慄く。

「クスリ……? なんで、マイくんがそんな危ないモノ」
「なんでって? これが手っ取り早いからさ。海外進出には金とコネがどうしても必要になる。大陸で出回っているコイツはすこしの量で願いを叶えてくれるって評判なんだぜ? イヤな記憶を忘れて新しく作り替えるんだ……りいか、君のなかからあの男を消し去って、オレとイチからやり直すんだ」
「っ……!?」
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