アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
 ――ううん、嘘。

 許せないし、結局同じ事になってたと思う。

 だんだん自分でも何を言ってるのか、何を言いたいのか、分からなくなってくる。

 なんかもう全部投げ出したい。

 本当は私も最初からあなたのことなんか好きじゃなかったのかも。

 ……なんてね。

 ――馬鹿じゃないの、私。

 後出しじゃんけん。

 好きだったくせに……。

 抱き合って、あんなに愛し合って溺れたくせに。

 私だって嘘つき。

 嘘ついてるのは私の方。

 だけど、それをどうしようもなくしたのはジャン、あなた。

 あなたのせいよ!

 自分でもどんどんおかしくなっていくこの気持ちをどうにもできない。

 感情だけが高ぶっていって、理性も思考も吹き飛んでしまう。

『何があってもあなた自身で考えて答えを選ぶのですよ』

 ごめんなさい、お母さん。

 何も考えられない。

 フランス人とか日本人とか関係ない。

 恋なんてうまくできるはずがない。

 愛しているから愚かなのか、愚かだから愛したのか。

 そのどちらなのかなんてどうでもいい。

 ただ確実なのは、私が愚かな女だということだけ。

 初めて出会った男にだまされた馬鹿な女。

 勝手に始めた一人芝居に陶酔する悲劇のヒロイン。

 生理的な嫌悪感しか感じなくなっている自分をどうにもできない。

 気持ち悪い。

 なんで私はここにいるの?

 どうしてこんな人と一緒にいなくちゃならないの?

 自分でもどうしていいのか、何をしてほしいのかなんて分からない。

 ただ、もう、分かってるの。

 私たち……、もう終わりなのよ。

 だって、こんなに悲しいのに涙すら出ないんだもん。

 永遠なんてただの幻。

 終わるときは一瞬。

「待ってくれ」

 ジャンがゆっくりと上体を起こす。

 私が視線をそらすと、目を追いかけようとしてくる。

「見ないで」

 彼は両手のひらを私に向けて力なくうなずいた。

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