極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 慌てふためく繭とは対照的に樹は冷静だ。なにかを思案し、真剣なトーンで繭に言う。

「実家は……やめておけ。縁起でもないことを言いたくはないが、こういうケースは関係者を増やしちゃダメだ」

 彼の深刻な表情から言わんとすることは伝わった。つまり、被害者になりうる人間を増やすなと樹は言いたいのだ。ストーカー事件で被害者本人だけでなく、その家族までもが犠牲になるケースは少なくないから。

「今あの男が認識しているあんたの関係者は、旬太と俺と、事務所の先生くらいだろ」
「はい、そうだと思います」
「ならそれ以外の人間の存在をあいつに知らせるな」

 樹の意見には説得力があり、『それでも実家に戻る』とは繭も言えなかった。そもそも落ち着いて考えてみると、繭の実家は立川市内で事務所にも保育園にも遠すぎる。

(私が仕事しないと食べていけないし)

「高坂先生。ご心配はありがたいのですが、やっぱり私はこの家を離れるわけにはいきません。旬太の保育園の近くでないと」

 樹の自宅の場所は知らないが、保育園まで電車で何十分もかかってしまうところで暮らすのは現実的ではない。被害が出てからでは遅いのは重々承知だが、子持ちの身ではそうフットワーク軽く動くことは難しいのだ。

「川口さん、きっと離婚で精神的に参っているんですよ。そう悪い人には見えませんでしたし」
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