極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 うろたえる繭に樹は重ねて言う。

「家にいるときくらい、くつろぎたいんだよ」

 そう言われては、繭はもう抵抗できない。か細い声で彼の願いを叶えてみせる。

「い、樹……くん……」

 樹はふんわりとした笑みを浮かべて、それを受け入れる。

「ま、今のところは及第点にしといてやるか。『くん』が取れる日を楽しみに待ってる」

 樹の笑顔を直視できなくて、繭は思わずうつむいてしまった。旬太に呼ばれた樹が離れていっても、バクバクと鳴り響く自身の心臓をどう静めたらいいのかわからない。

 この家をまるで自分の家のように彼は語った。繭が『樹』と呼び捨てできるようになる日を待つ、とも……。その事実が繭の胸を甘くこがす。と同時に、どうしようもない不安も押し寄せてくる。

(勘違いしそうになる。本当の家族みたいって、家族になれるんじゃないかって……それは無理な話なのに)

 繭は大きな秘密を抱えていて、それを樹には打ち明けていない。

(知ったらきっと軽蔑される。私はいいけど、旬太のことも……?)

 事実を知った樹は旬太をどう思うだろう。きっと今と同じように笑いかけてはくれなくなるだろう。繭はあらためて、自分の罪を実感する思いだった。シングルマザーとして歩む道を後悔したことは一度もないが、それは樹や旬太の気持ちを無視した決断だったのかもしれない。感情が不安定に揺らいで、涙があふれそうになる。
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