忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
 男に連れられ、一番端のカウンター席に座る。振り返って二人を睨むと、今度は拳を振り上げるフリをする。頑張れって、一体何を頑張るの。意味がわからないんだけど。

「何か飲む?」
「……じゃあ何かオススメがあれば」
「甘いカクテル好きなの? さっきからそういのばかり頼んでたよね」

 見られていたかと思うと、急に恥ずかしくなった。

「私ビールが苦くて飲めないんです。カクテルは私の中ではジュースの延長かな」

 男はクスッと笑うと、美琴を上から下まで視線を動かす。バーテンダーに何か耳打ちをし、美琴の前に運ばれてきたのは真っ白なカクテルだった。

「ホワイトレディ。なんかあんたのイメージっぽいかな」
「……服が白いから?」
「違う違う。純粋そうってこと。さっきから三人の会話が聞こえてさ、かわいいなって思ってた」
「……チャラい……」
「えっ、いやいや、全然チャラくないだろ。むしろ硬派」
「勝手に言ってください。私は純粋なんで、チャラい人はお断りですから」

 美琴が言うと、男は大きな声で笑い出す。

 何故いきなり笑い出したのかわからず、美琴は驚き戸惑った。それを隠すかのようにカクテルに口をつけると、目を見開いた。

「わぁ! 美味しい……すごく爽やか。カクテルって種類がたくさんあるんですね!」
「店によってオリジナルもあるし。一生かかっても出会えないものもたくさんあるんだろうな」
「一期一会ですからね。出会えたら運命なんですよ」
「……じゃあ俺たちのこの出会いも運命ってこと?」
「……し、知りません!」

 男のいたずらっぽい視線がくすぐったくなり、美琴はプイッとそっぽを向く。

「ねぇ、名前教えてよ。俺は尋人(ひろと)
「……美琴です」

 先に言われてしまっては答えるしかなかった。
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