忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
「美琴、海外ドラマ好きなの?」
あっという間に呼び捨てにされた上、それまでのやりとりがなかったかのように進む会話に、美琴はペースを乱され続ける。
「たくさん見てるわけじゃないですよ。地上波で見たものとかは続きが気になっちゃって。でもああいうのっていいところで終わっちゃうのに、続きを放送してくれないからモヤモヤしちゃう」
「へぇ。どんなの見てるの?」
「ミステリー系が多いかな。FBIと
法医研のドラマは好きすぎてボックス買いしちゃいました」
美琴ははっと我に帰る。好きなことを語り過ぎると暴走してしまう所があるので、気をつけていたのだ。
「あぁ、あれね。俺あのダイナーで二人が一緒に食事しながらおしゃべりするシーンがすごい好き」
思いがけない返答に美琴は固まった。
「知ってるの?」
「俺も海外ドラマ好きだから、時間があれば休みの日とかに一気見したりするし」
あれっ、なんでこんなに嬉しいんだろう……美琴は急に胸が苦しくなった。今まで海外ドラマについて熱く語ると、イメージと違うなど引かれることばかりだったので、好きなものを共有出来るという経験が初めてだった。
「俺あれからチリコンカンが食べられないんだよなぁ」
美琴は吹き出す。ドラマを知ってる人にしか伝わらない特別な会話。私、少しずつこの人に興味を持ち始めている。こんな些細なことでもっと話したいと思い始めている自分に驚いた。
「美琴ちゃん」
背後から声をかけられ、美琴の体はビクッと震えた。振り向くと千鶴と紗世が二人の様子を伺うように立っている。
「私たちそろそろ帰ろうかって話してたんだけど、美琴ちゃんはどうする?」
「一緒に帰る? それとももう少しいる?」
いつもの美琴だったら確実にみんなと帰ると言ったはずだ。五分前であってもそうだったかもしれない。なのに今は……。
美琴は尋人の顔を見る。黙ったまま美琴を見つめていた。視線が絡み合うと、息が苦しくなる。
「もう少し……いようかな……」
その言葉を聞いて、二人は笑顔になった。
「わかった! じゃあ私たちは先に帰るね」
明るく言う千鶴とは対照的に、紗世は尋人に向かって冷たい視線を投げかける。
「何かあったら容赦しませんよ……」
「りょ、了解です」
二人が帰るのを見届けてから、尋人は不敵な笑みを浮かべる。その表情が妙に色っぽくてドキドキした。
「いいの? 一緒に帰らなくて」
「……いいの」
「俺と一緒にいたかった?」
「違う。話したかっただけ」
「同じじゃん?」
「同じじゃない」
尋人は美琴の顔を覗き込むと、そのまま唇が重なる。尋人の指が美琴の頬をなぞり、輪郭の横に流れた髪を耳にそっとかけた。
「抵抗しないの?」
唇が離れる。酔っているからかしら。抵抗しようなんて考えは浮かばなかった。