彼と私のお伽噺
新入社員の私が戸崎部長と直接業務上で関わることはほとんどない。だけど、こうして顔を合わせると、いつでも優しく話しかけてきてくれる。
戸崎部長は、部下に対するフォローが手厚いといういうことで総務部の社員からも評判が良い。
私も、一新入社員でしかない自分のこともよく気にかけてくれる戸崎部長のことは好きだった。
「何か困ったことがあったら、いつでも声かけてね」
「はい、ありがとうございます」
ペコッと頭を下げると、戸崎部長がクスッと笑った。
「毎年思うけど、1年目の子って本当に初々しくて可愛いよね。矢木さん、お昼これからなら、一緒に外に食べに行く?」
「ありがとうございます。せっかくのお誘いありがたいんですけど、今日はお弁当なんです」
せっかく戸崎部長が声をかけてくださったのに、申し訳ないな。
そう思いながら手に持っていたお弁当箱の包みを持ち上げると、戸崎部長が意外そうに少し目を見開いた。
「へぇ。矢木さん、お弁当持ってきてるんだ。一年目で新生活に慣れるだけも大変な時期なのに、ちゃんとお弁当を作って来れるなんて偉いね」
「いえ、そんなことないです」
戸崎部長が大げさなくらいに褒めてくれるから、照れくさい。私が会社に毎日お弁当を持ってくるのは、昴生さんのお弁当を作るついでだ。
学生時代、自分用にお弁当を作っていたら、昴生さんが「俺の分も作れ」と言い始めて。それ以降、お弁当作りは私の朝の日課になっている。