彼と私のお伽噺

「お弁当派だったらこんな情報必要ないかもしれないけど、うちのオフィスの周りは美味しいランチの店がいっぱいあるよ」

「そうなんですね」

「うん。もし機会があれば、オフィスの周囲のレストランも行ってみて」

「ありがとうございます。戸崎部長のおすすめの店とかあるんですか?」

「んー、そうだな。女の子が好きそうな感じの店だったら……」

 考えるように視線を上げた戸崎部長が、不意に何か思いついたように私を見てにこっと笑う。


「よかったら、明日の昼休みにどこか連れて行ってあげようか?」

「いいんですか? あ、でも……」

 戸崎部長の誘いに目を輝かせながら頷いた直後、ふと昴生さんの顔が思い浮かんだ。

 だけど、もし万が一、戸崎部長とふたりでランチに出かけているところを見られたら……。

 学生の頃から、昴生さんは私の交友関係に結構うるさい。

 友達と買い物に行くと言えば、相手が女の子がどうかしつこく問い詰めてきたし、飲み会に行って夜九時を過ぎるとスマホに鬼電してきたし、飲んでいたお店の前まで迎えに来て、たまたま飲み会メンバーの中にいた男の子に引かれるほどガンを飛ばしていたこともある。

 大学時代の友達に昴生さんとの関係を聞かれるたびに、適当に「保護者みたいなもの」と答えていたら、友人たちのあいだで昴生さんは私の兄として認識されるようになり。「咲凜のお兄さんて、イケメンだけど過保護だね」とよく笑われていた。

 社会人になってから学生時代の友達もみんな忙しくなって、遊びに出かけることがめっきりと減ったけど。もし万が一、戸崎部長とふたりでランチに出かけているところを見られたら……。

 想像するだけで、面倒なことになりそうだ。

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