彼と私のお伽噺
「たしかに、戸崎部長に優しく声をかけられたら、女の人はみんな好きになっちゃうかもしれませんね」
おかずを詰め終えたお弁当箱に蓋をしながら冗談交じりに笑うと、昴生さんが急に後ろから私の首に腕を絡ませて引っ張ってきた。
「ちょ、苦し……」
喉の前を押さえつけられて咳き込んでいると、昴生さんが私の両頬を右手でつかんで振り向かせる。
「咲凛、お前もしかして。戸崎のことが気になってるから、婚姻届のサイン渋ってんのか?」
私を見下ろす昴生さんが真顔でそんなことを聞いてくるから、つい笑いそうになってしまった。
「何言ってるんですか、昴生さん。そんなわけないじゃないですか」
「お前が女なら誰でも戸崎のこと好きになるとか言うからだろ。戸崎が優しいのなんて、ただの見せかけだからな」
「昴生さん、戸崎部長のこと妬んでるんでしょ。昴生さんと違って、人望あるから」
「は? なんで俺が戸崎のこと妬まないといけねーんだよ。人望なら、俺にだってある」
「でも私、入社してから昴生さんの浮いた噂を一度も聞いたことないですよ。営業一課の鷹見課長は、いつも眉間寄せてて怖そうだって噂は聞いたことありますけど」
TKMグループに入社してから実際に聞いた噂をボソリとつぶやくと、昴生さんが私の頬をつかむ手にぎゅーっと力を入れた。