彼と私のお伽噺

「あの、戸崎部長……」

 なかなか笑い止まない戸崎部長を横目に見つめていると、「咲凜」と背後から低い声がした。

 聞き慣れすぎた声にドキリとして振り向くと、真後ろに昴生さんが立っている。


「ここで何してるんだ?」

 私に問いかけながら、昴生さんが戸崎部長のことをジロッと睨む。

 眉をつりあがらせた昴生さんの表情は不機嫌極まりなく、今にも戸崎部長に食ってかかりそうな勢いだ。


「ほら、朝言ったじゃないですか。総務部の先輩たちとランチに行くって」

「たしかにそう聞いた。でも今のお前は、戸崎とふたりきりだな」

 昴生さんのことを落ち着かせようと思ったのに、私の発言は余計に彼を不機嫌にしてしまったみたいだ。


「昼休みに上司とオフィスの外を歩いてたくらいで、そんなに目くじら立てるなよ。心が狭い男は嫌われるぞ」

 私たちのやりとりを聞いていた戸崎部長が、昴生さんの顔を見て、ふっとからかうように笑う。


「は? お前こそ、新人誑かしてんじゃねーよ」

 昴生さんが戸崎部長に向かってそんなことを言うからヒヤヒヤする。
 
 いくら昴生さんがTKMグループの御曹司とはいえ、職場では戸崎部長のほうが役職も年齢も上だ。
 
 親しい間柄とはいえ、あんまり生意気なことを言ったらマズイのでは……。

 だけど私の心配をよそに、戸崎部長は唇を弓状に引きあげて、楽しそうに目を細めた。

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