彼と私のお伽噺

 昴生さん達の姿が完全に見えなくなってから、私はふらふらとした足取りでコーヒーショップをあとにした。

 家に帰ろうと身体を動かすけれど、昴生さんと妃香さんのことばかり考えてしまって。電車で立っているときも、駅からマンションに向かって歩いているときも、胸が詰まって涙が溢れそうになる。

 ようやくマンションに辿り着いて自宅のドアを開けると、堪えていた涙がぼろぼろと玄関の床に落ちた。

 コンサートで初めて妃香さんに出会ってからずっと危惧していたことが、ついに現実になってしまった。

 あの綺麗な人が、私から昴生さんを奪い去ってしまう。

 私は泣きながら家に上がると、渡米用に買ってあったスーツケースに手当たり次第に荷物を詰め込んで、昴生さんと五年間暮らしてきたマンションを飛び出した。

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