契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「車、好きなの?」
「好きだな。運転するのも好きなんだが普段はハンドルを握る機会は少ない。休みの日にたまに走らせるくらいだ」

 美冬には車のことがよく分からなくて、ふぅんと言うしかないのだが、好きだ、と言う槙野の顔はとても良かった。

 槙野がアクセルを踏むとエンジンの低い音が響く。
 重低音に響く音は美冬には馴染みがなくて少し驚いた。

「す……すごい音がするものなのね?」
「スポーツカーだからな。このエンジン音に惹かれてこの車を買ったと言っても過言じゃない」

 アクセルをぐっと踏み込んだ槙野はハードな運転をするのかと思えば、意外と雑ではなくて美冬は安心した。

 ハンドルを握ると人格が変わる人もいるらしいが、槙野はそんなことで人格が変わるような人物ではなかったらしい。

 ブレーキも優しいし、曲がる時も身体が押し付けられるような感覚はない。信号が変わった時のスタートもスムーズだ。

 車の中で美冬は綾奈のことを話す。
「綾奈さん、別人みたいよ。すごく痩せてしまって」
「へえ……そんな風に聞いてもピンとこないが。国東と上手くいってるんだろうか」
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