契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「お前に事情があるように俺にも事情がある」

 真っ直ぐに目を見られてそんなことを言うので、美冬は見返して首を傾げた。
「その事情って……?」

 今の今まで自信満々で肉食獣のように攻撃的だったのに、美冬が事情を尋ねると急にふっと目を逸らせる。
 その姿は耳を垂れた大型犬のようだ。悪いことはしていません、という顔。

 しかし実家に犬がいる美冬は知っている。
 これはやらかした時の顔だ!

「今は言えん……」
「まさか借金とか……」
「なわけあるか! お前俺が金無いように見えるのか!?」

 高級スーツはおそらくオーダー、シャツも同じくオーダーなのだろう。
 スーツの襟元から見えるだけだが、生地も仕立ても相当良さそうだ。ネクタイもブランドもの。

 髪をかきあげた時にちらりと見えた時計もスイス製の高級腕時計だ。おそらくそれだけで車が買える。

「見えませんね。じゃあ……女? 女性トラブルとか困るんですけどー」
 美冬は口を尖らせる。

 槙野はぎりっと奥歯を噛み締めて美冬を睨む。
< 27 / 325 >

この作品をシェア

pagetop