天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~
 そうつぶやいて、奥歯を噛み締める。

 ダウンバーストというのは、ごく狭い範囲に短時間だけ現れる、激しい下降気流だ。
 着陸時にダウンバーストに巻き込まれれば、墜落の危険性がある。

 私はヘッドセットに手を当て、急いで指示を出しなおす。

「OJA212便。ダウンバーストが発生しているので、ゴーアラウンドしてください」

 それを聞いて管制室の中がざわつく。

 ゴーアラウンドというのは着陸を断念し、機体を上昇させることだ。

「エンジンが一機止まって燃料の余裕もない中で、ゴーアラウンドなんて!」

 同僚の管制官から悲鳴のような声が上がった。

 後ろに立つ北原くんが、険しい顔で窓の外を見る。

「大丈夫か? 無理にでも着陸させたほうがよかったんじゃないか」

 北原くんの言うとおりかもしれない。
 そんな迷いが生じる。

 着陸航路に進入し下降していた212便が、私の指示通り機首を上げた。
 強い下降気流にあおられ大きく両翼を揺らしながら、なんとか上昇する。

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