天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~
 あのとき無理にでも着陸していれば、被害は最小限ですんだかもしれない。

 恐怖のあまり頭が真っ白になりかけたとき、『管制タワー』と低く艶のある声がヘッドセットから聞こえた。

 翔さんの声だった。

『あのまま着陸していたら危険でした。的確な判断をありがとうございます』

 そう言われ、ぐっと胸が詰まる。
 この極限状態で私を気遣って声をかけてくれるなんて……。

 涙が込み上げてきそうになったけれど、こぶしを握り締め必死にこらえた。
 今は泣いている場合じゃない。

「OJA212便。こちら管制タワー。あと数分で風は収まると思います。旋回し、再度34Lの着陸航路に入れるよう準備をしてください」
『了解』

 こちらの指示に短く答えた後、『里帆』と私の名前を呼ぶ。

『里帆、俺は君を信じてる。必ず無事に滑走路に降ろしてくれると』

 管制タワーに向けてではなく、私に向かってそう呼びかける。
 こんな状況だというのに、泣きたくなるくらい優しい声だった。

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