天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~
「あなた、じゃなくて翔でいい」
「翔さん?」
私が名前で呼ぶと、強い視線がやわらかく緩む。
「里帆はいつ日本に帰るんだ?」
「明日です」
「じゃあ、最後の一日くらい楽しまないとな」
翔さんはそう言うと歩き出した。
「え、あの……」
きょとんとしながら彼の後ろ姿を見つめる。
「このまま帰国したら、パリに最悪な印象しか残らないだろ。せっかくこんな遠いところまで来て楽しまないなんて、この街に失礼だ」
立ち尽くす私に向かって、翔さんが「おいで」と手を差し出した。
長い指が綺麗な、大きな手だった。
なぜかその手がとても頼もしく見えた。
普段から慎重で真面目な私が、初対面の名前しか知らない男の人の誘いに乗るなんてありえない。
それなのに、海外旅行という非日常のせいか、彼氏に裏切られたさみしさのせいか、気づけば足が前に出ていた。