スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「……かわいくなんて」
砂糖のような甘い口調に少しだけ反抗的な態度をとってしまう自分に対し、己ながら可愛くないなんて思う。
「ううん、紗雪は可愛いよ。どこの誰よりも」
顔が近づいていく。
啓一郎さんの右目付近にある泣き黒子が至近距離で目に入る。
口から心臓が飛び出しそうだった。
「ねえ紗雪。────いい?」
何を言っているのか分からないほど子供ではない。
私は目をぎゅっと閉じながらこくりと頷いた。
そして唇に──柔らかな温もりを感じる。
初めてだった。
啓一郎さんとも今まで一緒に生活し、共に寝ていたのに唇さえ合わせたことがなかった。
だから不安でもあった。
私を女として見ていないんじゃないかと。
ゆっくりと唇が離れ、啓一郎さんと至近距離で見つめ合う。
ときの流れがいつもよりゆっくりと感じた。
私ははっとし、顔を赤らめながら啓一郎さんと距離を取る。そんな様子を見て啓一郎さんは。
「やっぱり可愛いね」
そう言って微笑んだ。
余裕綽々な啓一郎さんに少しだけ腹の立った私は勢いよく立ち上がる。
「さ、先に上がります!」
そして逃げるようにして足湯を出て行った。
私は濡れた足を拭き、高ぶる鼓動を鎮める。
「…………やっぱりよく分からない」
なぜあんな事をするのか。
私を可愛いと言うのか。
肝心な言葉は一度も口にしないのに。
一体何を考えているのか分からず、私は振り回されるばかりだ。
足湯以外にも色々あったせいで余計に汗をかいた私は足湯施設の中にあった自動販売機で水を買い、近くにあった休憩スペースに腰を下ろした。
「なんか恥ずかしすぎて置いてきちゃったけど大丈夫だったかな……」
買った水で喉を潤しながら考え込む。
さっきの行動は子供っぽすぎたのではないかと。
夫婦であるはずなのに大人な啓一郎さんとは違い、私はいつまでも落ち着きがない。
そんな劣等感にため息をついていると────。
「……あれっ? もしかして瑠璃川、センパイ?」
聞き覚えのある声が聞こえた。